第10回「森田雄一 -後編-」



第10回「森田雄一-後編-」

毎度どうも。私パノラマファミリーという名義で音楽をつくったりラップしたりしているゴメスと申します。この妙なコラムもついに10回目。10回目までいったらこのコラムのテーマを変えますと宣言した通り、次回更新時には色々変わっていることでしょう。あしからず。近況をたまには書きましょうかね。あれですよ、私10月に発売したんですがアルバムを作ったんですよ。「MELLOW SUMMIT」っていうタイトルで17曲入りのアルバムなんです。なんとミックスとマスタリングをシャカゾンビのツッチーさんにやっていただきました! 最高の音に仕上がってうれしい限り。という感じでこれは最高なんで是非買って聞いていただけたら幸いです。あとは、えーと、あれだ。最近引っ越ししました。なので、わずかな貯金もきれいさっぱりなくなりました。ブリンブリンとは真逆の極貧MC!! あ、悲しくなるから引っ越しの理由は聞かないでください。。。とりあえず人生において結構な切ない経験をして、また大人になったとだけ言っておきます。。。(今の気分のBGMは「Good by my love」もしくは「また逢う日まで」です。)

閑話休題。

しかし、まだ始まって1年も経ってないのにYEALO!ずいぶんとコンテンツ増えましたね!! あ、MUSIC LUNCH BOXっていうMIXとイベントを紹介するコーナーのみ更新が遅々としておりますが、もし誰か載せてよって人いらっしゃいましたらメールなりライブハウスやクラブなどで声かけてください!!急募です!!

師走ですね。
毎日バタバタバタコさんな日々をお過ごしのみなさまお疲れ様です。
この「お疲れ様です」という言葉はメールなどで見たときに意外とその人のパーソナリティでますよね。
例えばここで「ド疲れ様です。」なんて書くと、この人はスチャダラパー好きなんだなとか、メールでユーモア出したいんだな、とかね。「お疲れ様です」は真面目だな~という印象ですね。「お疲れ~」なんていうのが一番多いかと思いますが、これはなんとなく「仕事じゃないんだから」という気持ちと「堅苦しいのもちょっとね。。」という相手に対して気を遣う日本人らしさがでていて僕は好きです。「おっつー」みたいなのはチャいので好きじゃないですが、すげー真面目な人が使ったらギャップで笑えるので好きです。「お疲れーしょん」はナイナイのラジオ聞いてたのかな?とか思うし、「お疲れでゴンス」みたいなのは「かわいいな」と思う反面「こ、こいつ、正気か?」とも思ってしまいますね。

えー、とりあえず今年の疲れは今年の内にということで。
来年もYEALO!を何卒よろしくおねがいしますでゴンス。

…ということで第10回目参ります!

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適当に思い付いた名前を見て、オレが勝手にどんな人生を送ってきたか、プロファイリング、つまり分析するコラム、「Don’t Stop In The Name Of Love 」スタート。

第9回、10回目の名前は「森田雄一」です。
(※あくまで仮想の名前なので偶然の一致は悪しからず。)

前編はこちらからどうぞ。

では後編スタート!

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授業は退屈で、かといってサボって屋上に行ってタバコをふかすようなキザなわかりやすさも苦手な雄一は、たいてい時計の針を見てすごすことにしている。ラジオで「テンポ120というのは秒針がカッチカッチと一周するときに刻むリズムのことだ」と聞いたからだ。

 

これを最初に聞いたとき雄一は部屋ですぐ時計を見て「おーっ」と感心し、これなら授業中にも時計を見てたら楽しいかもと思い付いたのだ。しかし、最初に実際に学校で時計をみてみると、ステップ式ムーブメントではなくスイープ式ムーブメントという1秒ごとに秒針が止まらずにスィ~と進むタイプの時計でがっかりした。でも、ぼんやり時計の秒針を眺めているうちに、それはそれで自分のテンポ感を鍛えているような不思議な感覚になってきたので、それ以来の退屈な授業中はそれでなんとかしている。すると時計が時計というよりはコンパス、つまり方位磁石のようなものにも思えてくる。こっちが気持ち良いよと教えてくれてるみたいだとさえ錯覚さえするようになることがある。

 

「音楽 がコンパス となって舟 出す」

 

これは雄一の唯一知っている日本語ラップのリリックだけど、誰のリリックかも曲も知らない。たまに遊ぶ友人の兄貴が昔教えてくれて、良いなと思い返すことがしばしばある。

 

そんな誰かのリリックを思い出しながらやっと帰りの会を終え、部活に行こうと体育館へ向かうと、今日はPTAからの苦情のため中止になったのだという校内放送が渡り廊下の手前で聞こえ、雄一はくるりと踵を返した。普段なら体育館に行って少しでも練習させて欲しいと顧問に懇願するところではあるが、その日はあんまりそういう気になれずそのまま一人で帰ることにした。

 

帰り道で小腹が空いたのでブラックサンダーを2つと紙パックのコーヒーを買う。

 

ブラックサンダーのキャッチコピー「若い女性に大ヒット中!」というコピーは話題になって雄一も最初すごく笑ったし、クラスのやつらもみなこれを嬉しそうに食べていた。でもブームは去る。今は誰も笑わないし、「ただ、そこにある」といったお菓子だ。でも雄一はむしろ流行っていたときよりも今の方がブラックサンダーを良く食べている。自分は案外天の邪鬼なのかもしれないなと思った。

 

コンビニを出てすぐ靴ひもが解けたので締め直していると、ふと「あ、JAZZ喫茶へ行くんだった」ということを思い出した。こんな風にまったく関係のない動作と事柄が結びつくのは一体どういうわけだろう。雄一は日曜日の予定のない朝、歯ブラシに歯磨き粉を搾るときに何故か必ず「葉加瀬太郎の革靴の話」を思い出してしまう。

 

葉加瀬太郎は10万する革靴を履くらしいのだけど、買ったお店では「最初の1年は自分のモノになりませんよ」と言われ、履いてみると確かにとにかく痛くて、1ヶ月は足をマメだらけにしながら、バンドエイドを貼りまくって、苦しみながら履いていたのだが、半年が経ち、底のコルクが沈んでくると、フカフカした歩き心地になってくて、例えるなら、毛足の長い良い絨毯の上をずっと歩いている感じで、だんだん皮が伸び、自分の足の形になっていき、最後には自分の足を優しく包んでいる、そんな感覚になってくれるのだと力説していた。そのことを何故か思い出すのだ。こんな風に不思議だけど全く別のものが記憶の底で結びつくことはよくあって、たまたま今はそれが歯みがきと葉加瀬太郎ではなく、「靴ひも」と「JAZZ喫茶」だったのだ。

 

隣町にあるJAZZ喫茶は駅からのびる微妙な商店街の一角からちょっと路地にそれたところにある。タウン誌でも前に紹介記事を読んでたし、看板は商店街に出ているので存在は前から気になっていた。

 

ドアの前に立つとなんだか、入りづらい雰囲気がある。まぁ良いかと思い切ってドアを開けると中には誰も居なく、ただ大きいスピーカーが2つと数セットのテーブルと椅子があり、一面にジャズのレコードと思われるレコード、奥の方にはジャズ関連っぽい本もあった。カウンターににも椅子が数脚ありその奥にはレジがあった。おそるおそる店内の奥へ進むと今まで見えなかったレジの奥にマスターらしいチョビヒゲのおじさんがこちらに背を向けてなにかガサガサ探していた。

店内にはビバップ風のテンポの早い曲が流れていた。

 

雄一はとりあえず人が居たことに安堵し「こんにちは」と話しかけた。
マスターはビクっとして振り返り、怪訝そうな顔で「こん…ににちは」となめ回すように雄一を見た。
「あの、えーと、JAZZを、その、聞きたくて…」と雄一がどもりながら言うと、マスターはやっと「いらっしゃい」と言い、「好きなとこに掛けて、今ちょっと取り込んでるから。すぐ終わるけど、、、これでよし! あ、コーヒーで良い? 飲める?」と言ってきたので雄一は「はい、飲めます」と言ってカウンター席の一番ドアに近い席に座った。

 

「はいどうぞ」コーヒーが置かれた。豊潤な香が広がった。

 

「中学生?」

 

「はい」

 

「そうか~、JAZZなんて好きなの? 今はAKBとかそういうのじゃないの?」

 

「いや、僕はあんまりテレビ見ないので、その、AKBとかは好きじゃなくて」

 

「じゃあお父さんの影響とか?」

 

「いや、ラジオの影響です」

 

「なるほど、それで勇気を出してJAZZ喫茶なるもに足を踏み入れたと」

 

「まあ、そんな感じです。」と雄一は少しはにかんだ。

 

「ここはのんびりと良い音でジャズを聴いてリラックスしたりする場所だから、適当に羽を伸ばしてのんびりしていって構わないよ」

 

「ありがとうございます」

雄一はコーヒーを一口すすってから目をつむって音を聴いた。

 

レガートとか4ビートとか呼ばれるライドシンバルとハイハットを踏むリズム、それに合わせてウッドベースが動き回る。ピアノはバッキングと軽いメロディを奏でる。しばらく聴いているとそれはスティービーワンダーのYou are the sunshine of my lifeのカバーだと分かった。この曲はラジオでも良く流れる。

ラジオではスティービーワンダーが流れると、決まってどのパーソナリティもこの逸話を話したがる。
スティービーワンダーは盲目のミュージシャンだが、幾度かの結婚相手や付き合ってきた女性はみな容姿端麗だという話だ。特に男のパーソナリティはこの話を嬉しそうに話す気がする。やっぱりこの逸話は男性にとって何か気分が良いのだろうなと思う。

 

そんなことを思ってのんびり聴いているとマスターはこんなのは嫌いかな?と言って次の曲をかけた。
イントロはキレイなピアノが聞こえ、徐々にドラムとヴィブラフォンがテーマを奏でる。気持ち良いワルツだ。すると突然「あの音色」が、聞こえた。あのずっと雄一が夢中になっていた何という楽器かは【知らないが気持ち良い音。あのクレッシェンドしてはデクレッシェンドをくり返すあの音…思い切って雄一はマスターに聞いた。

「あの、この音は何の音ですか!?」

 

「これ? 主旋律の?」

 

「そう、これ! 今パラパパ~って聞こえる音です!」

 

「あ~、これね。これはね、トランペットだよ。」

 

「えっ!? だけど、僕が知ってるトランペットはもっと高音がうるさいし、何だか違う楽器みたい」

 

「あ~、そういうことか。これはトランペットに”ミュート”っていうものをつけるとこういう音になるんだよ」

 

「ミュート!? なるほど…そうなんですか。」

 

「ミュートつけると音が変わってなんか渋い音になるんだよね〜」

 

「教えてくれてありがとうございます。僕この音がなんなのか知りたくて今日はJAZZ喫茶に来ようと思ったんです。」

 

「そうだったの。それはお役に立てて良かったよ」

 

「それで、この曲はなんという曲ですか? 買いたいので教えて下さい」

 

「‪The Waltz In Waltz‬という曲だよ」

 

「‪The Waltz In Waltz‬、聴いたことないな~スタンダードじゃないですよね?」

 

「ある意味スタンダードだよ」

 

「ある意味?」

 

「そう、ある意味。すごい有名な人がこの曲の作者」

 

「だれだろう,,, マイルス・デイヴィスくらい有名ですか?」

 

「いや、もっと日本人ならだれでも知っている人だよ」

 

「…わかりません」

 

「タモリだよ」

 

「えっ!?」

 

「お昼のほら、いいともとかミュージックステーションのさ~」

 

「マジで?」

 

雄一は敬語を忘れるほど驚いた。というか訳が分からなかった。

 

タモリ、イグアナのでしょ? ジャズとタモリ….頭がこんがらがりそうになる。

 

「タモリは早稲田大学の名門JAZZサークル出身で、トランペッターなんだよ」

 

「え、じゃあまさかあのミュートされたトランペットの音は,,,」

 

「そう、君が気に入った音色はタモリが奏でた音色だよ。驚いたでしょ?」

 

店を出てCDショップに行く、タモリのあの曲が入ったアルバムは残念ながら廃盤で変えなかったので、親父の部屋のパソコンでこっそり検索してみるとTOUTUBEに本当にあった。しかもコメント欄には絶賛の嵐。うわ~マジか。パソコンの履歴を消してから電源を落として、自分の部屋に戻る。タモリとトランペットなんて全く別のものなのにそこが繋がるなんて、歯みがきと葉加瀬太郎の記憶じゃないんだからさ、全く。いやそんなことがあっていいのか。一番嫌いなモノと一番好きなモノが繋がっちゃうなんて。うそでしょ。

 

悶々としながらなんとなく確認したくなってリビングのビデオで明日の昼12時から1時までのフジテレビの録画予約をした。その日はお気に入りのラジオから編集したMDを聞ききながら寝た。

 

学校ではいつものように退屈な時間を過ごし、いつものように時計を見ていた。今日はなんだか天気の関係で時計の針を覆うガラスが光って見えづらい。ふとタモリのサングラスの反射を思い出してしまうほど雄一の頭の中は昨日のタモリのことで一杯だった。

 

足早に家につくと録画したいいともをチェックした。こういうときのビデオの巻き戻しの音はやけに大きく感じる。再生ボタンを押す。「お昼や〜すみは」という曲が少しよれながら始まり、タモリがほんの少しだけ音に合わせて動き出てくる。あ〜すごく久しぶりに見たなぁ。こんなにグラサンの色薄かったっけ?なんて思いながら画面を見る。ピンクの薄いセーターを着たタモリが楽しそうに釣瓶をおちょくる。あれ?結構おもしろいな。これ明らかにアドリブだよな〜。アドリブなんてジャズみたいだな。

 

ん?JAZZみたい?

 

なんかそう気づいた瞬間、まったくタモリの動きしゃべりが今までと違って見えた。
面白いからスゴイ。に変わった。感動してしまった。そのとき釣瓶が「このおっさんな、今ではこんな司会ヅラしてるけど、昔は眼帯してイグアナのマネしてたんやで! 気色悪い(笑)」と言った。するとタモリがすかさずイグアナのマネをした。するとお客さんからどかーんと笑いが起こり、釣瓶が一番楽しそうにしていた。かと思うとすかさずタモリはリアルな猿のマネをしはじめて、もはやステージ上はひっちゃかめっちゃかになってしまった。

 

雄一は何だか感動してしまった。もちろん泣いたりはしないけれど、体の変な場所になにか響くものがあったのは間違いなかった。もう一度巻き戻して頭からいいともをみた。今度はタモリがいちいち面白かった。細かいところでちょこちょこいたずらをしているのすら分かった。

 

タモリは悪くなかった。もちろんイグアナも。

 

その日は結局3回もいいともを見た。

 

歯みがきと葉加瀬太郎とかJAZZとタモリとか全く関係性のないものが結びつく瞬間はおもしろいかもしれないなと思った。その夜はいつもよりぐっすりと眠れた。

 

次の日学校に行くと、教室はいつも通りだったけど、何だか気分が違った。
よどみがないような、空気がすっきりしているような間隔だった。
始業のチャイムがなった。

 

はい出席とるぞー」薄っぺらい教師が教室に入るなりいつものように言った。「阿部~」「はい!」「井岡!」「は~い」「…鈴木~」「はーい」……いつものがくるぞ。と雄一は不思議な気持ちで身構えていた。
「タモリー」

 

 

おしまい。

結論
「森田雄一」

タモリはかっこいい。

以上!